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 No.651

三輪 薫(みわ かおる)


No.651 『創る』/和紙プリントの魅力と表現の可能性 2016/7/10

僕のモノクロプリントによる個展は全て自分でプリントしています。個展によってはモノクロプリントとカラープリントを半々に展示したり、銀塩の印画紙と伊勢和紙を半々に展示した個展もありますが、モノクロプリントを展示の個展は11回開催しています。銀塩のモノクロ印画紙はバライタ紙と呼ばれるベースが紙のタイプのみ使ってきました。グラデーションが豊かで、トーンにも深みを感じるからです。モノクロプリントを自分で行う最大の利点は、同じカットに向き合う時間が長く、様々な思考を生み、作品創りに多いに役立つことだと確信しています。デジタル時代の現在でもインクジェットプリンターで自家処理することは作画研究にもつながり、いいことです。しかし、写真展などでは銀塩時代同様にプロラボに発注し、そのプリントを参考に研究してもいいです。

フリーになった1982年頃から自然風景も撮り始め、日本的な作品表現とは何かと考え、作風の構築に励むようになり、何時の日か和紙にプリントした個展を開催したいと思うようになっていました。モノクロ写真ではグラデーション再現を重視し、様々な引き伸ばし機や引き伸ばし用のレンズを揃えてプリント研究をし、カラー写真では色調再現の研究を続け、コマーシャルフォトで使っていたカラーメーターで自然光の色温度を測り、時にはライトバランシングフィルターやCCフィルターを使って色調を変えて撮ったこともありました。カラー写真で一番研究していたのがリバーサルフィルムの銘柄による色調再現の特徴を把握することで、被写体や気象や時間帯によるライティングなど様々な条件で使い分け、自分が感じ、求める色調を再現してくれるフィルムは何かと研鑽を続けていました。カラー写真の通常の個展でも7、8銘柄はあり、2001年に銀座5丁目にあったキヤノンサロンで開催した「風色」展は何と11銘柄もあり、我ながら驚きました。その使い分けにより三輪薫の統一された色が印画紙の上に出て来て、独自の世界を引き出せたと思っています。また、この頃の個展では、来場者の中には「写真展だと思って来たのに、、、」と言う方も少なからずいて、目指してきた「カメラで日本画や墨絵を描く」作風も完成度が上がってきたと確信しました。

2000年頃からインクジェットプリンターが飛躍的に進化を遂げ始め、大豐和紙工業(株)社長の中北喜得さんが機械すきの伊勢和紙Photoの開発をしていたのと重なり、いよいよ三輪薫の和紙プリント作品の制作が現実のものになろうとしていました。2001年にはレンズ交換式のデジタルカメラも発売になり、写真界もデジタル時代の幕開けを迎えました。2003年には長年の願望であった和紙プリントによる初めての個展「風香」も実現し、しかも当時のエプソンピエゾグラフというプリント技法の最高レベルのオペレーターの方による出力でした。10数年経った現在見ても遜色のない立派なプリントです。今年は2月に伊勢和紙ギャラリーでモノクロによる「仏蘭西・巴里」の巡回展を開催し、昨年開催の日本橋の小津ギャラリーより11点追加して展示し、このギャラリーの特長である外光をメインにした展示も出来ました。860ミリ幅のロール紙にプリントした薄い和紙を2枚重ね、しかも数ミリずらして展示することで後のプリント画像が手前のプリントに外光によって投影され、このズレの画像が動感を引き出す効果を上手く引き出せました。4月に銀座のキヤノンギャラリーで開催の「こころの和いろ」展では、会場の中央辺りに860ミリ幅の薄手のロール紙にプリントした作品を2点展示しましたが、この作品は裏面も見えるため、裏側には反転した逆像でプリントし、透過光でも見えるように会場の奥からスポットライトで照明しました。晴れた日の昼頃には向かいのビルや路面に当たった光りが会場の中に入り込み、奥から見ると透過光のライティングになり、天候や時間によって見た印象が変わってきます。和紙は面白い視覚効果を生みますね。

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