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 No.34

三輪 薫(みわ かおる)


No.34 「写すこと」/感動と驚きと、心に残る描写 2001/7/7

一昔に比べ、カメラ誌などに掲載される作品が分野を問わず随分色鮮やかになっているように感じるのは僕だけだろうか。印刷効果などの進歩によるものも大きいが、何よりフィルムの発色傾向が全体的に鮮やかになってきたことが原因だろう。

写真愛好家にとってフォトコンテストや写真誌の月例などへの入選・入賞は関心が高い。かく言う僕も二十歳前後の頃は数年応募していて、自分の作品が印刷された時の喜びは大きかった。だから、現在選者として応募者側の気持ちがよく分かる。しかし、この頃応募していた作品は全てモノクロだった。カラーフィルムはとても高価で、気軽に使えるものではなかったからである。それに比べ現在のカラーフィルムのなんと安価になったことか。幸せな時代である。30年前の基本となるカラーフィルムは、コダックのエクタクローム64プロ(EPR)だった。自然な発色が特徴で、現在も市販されている基本中の基本と言えるフィルムだと今でも思っている。写真のベースとなる色合いの研究のため、写真教室でもこのフィルムでの試写を薦めている。

フォトコンテストは作品同志が競合し、選者の目を引き、勝ち残らねばならない。そのためには他者の作品と比べ、目立つことも必要になる。つまり、選者の目を、心を驚かせることも入選するためには重要な要素となる。作品選考時に、印象を如何に選者に深く与えるかも大切なのだ。写真愛好家のダイレクトプリントが多くなった理由もそこにあるように思っている。見劣りのしない描写を得るためには、鮮やかタイプのフィルムと超光沢紙のダイレクトプリントに勝るものはない。

だが、作画として末永く心の片隅に残る描写とは、一時的に驚きを与える作品とは限らないことも多いと思う。僕が好きな描写は、長く観続けても、後から後からじわじわと心の片隅から味わいがにじみ出てくるものである。色を引き算し、さらりとした中にも自分自身、日本人としての美意識に満ちた作風を追求している。

面白いのは、鮮やかタイプの発色特性に火を付けた「ベルビア」を発売する富士写真フィルム(株)が、アスティアやプロビアFなど、コダックのエクタクロームEPRやE100Sなどに似た、自然な発色を特徴とするタイプに近いものを次々と出してきたことである。何故なのだろうか。僕の愛用フィルムは、逆に徐々にではあるが、鮮やかタイプのベルビアやエクタクロームE100VSが増えてきたように思う。鮮やかな発色特性だけを求めているのではない。色を押さえた中にも見たままの色合いを引き出すために、光や気象条件によってはこれらのフィルムこそがベストな選択であるからと判断してのことである。「侘び寂」を求める結果、そのような条件で撮ることが増えてきただけなのだ。フィルム選択の重要性を忘れてはならない。

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