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 No.117

三輪 薫(みわ かおる)


No.117 『写す』/写真の拡大率 2002/6/5

コダックの考え方によるデータでは、写真のクオリティーを維持する拡大率はせいぜい5倍くらいまでと聞いたことがある。小型カメラではキャビネ相当で、それ以上では粒子が荒れて許容範囲に入るトーン再現が出来なくなる、との考え方であろう。これは正しい理論である。しかし、作画と表現を主体に考えると、もっと大きくすることが間違ってはいないことに気付くはずだ。

カラー作品に対する僕の考え方は、拡大率は小型カメラほど大きく、大判になるほど少なくする、と言うものだ。コダックの考え方では、小型カメラの場合は四切でも限界を超えたプリントになり、それよりももっと大きくするなら同じことと考えている。しかし、プリントの再現性としてのクオリティーは下がっても、拡大することによって粒子の間に隠れて見えなかったものが現れ、逆にトーンが豊かに見えるのではないかと今は考えている。作品を見る位置は、サイズによって変わってくる。小さなプリントは手に取り、大きなサイズは全ての画像が視野に楽に入るほど下がって観ることになる。だとすれば、全てのサイズを同じ大きさに見ていると考えることも出来、そのことに気付いてからは前述のような考え方に落ち着いた。

トーンが隠れて見えないプリントよりも、拡大されることで出てきたトーンも含めて見るほうが写真の特質を上手く引き出せると考えたのだ。だから個展などの写真展では大きくすることが多くなってきた。フィルムサイズの違うカメラで撮った作品が混在する写真展では、大きなプリントにするため、より大きなフィルムサイズのカメラを選ぶ人もいるようだが、僕にとってはナンセンスなことだと考えている。

現在、銀座キヤノンサロンで「わの会」会員の岩崎ひろ子さんの個展「心響く自然」が開催中で、展示作品25枚の内4枚を全倍に、残りを全紙で見せるように構成した。都会の喧噪の中では得られない、心地よい風を感じるのは、作品の内容は勿論だが、この大きく拡大した画面によることが大きいと思っている。

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