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 No.140

三輪 薫(みわ かおる)


No.140 『写す』/ファインプリント 2002/9/18

今回のファインプリント展は、1994 年に第1回目を開催し、4年毎に行い、今回で3回目である。ファインプリントを本格的に始めるに当たって自宅を改築し、世界有数の引伸機も5台揃えた。1994年の1回目は、通常のファインプリント同様のトーンの出し方、ハイエストライトからディープシャドウまでを出した作品を主体にし、1998年の2回目には1回目に出した作品の中でフィット感の高い作画を生かす、今回の布石となる作品も展示して自分なりの方向性を確認した。そして、今回の3回目にして、やっと僕が30年探し求め続けてきたモノクロの世界を展示できた個展になったような気がする。今回のプリントは一般的なファインプリントの世界とはかけ離れたトーンの出し方かも知れないが、色の引き出し方や空気感や臨場感を重視する僕のカラー写真との共通性があるもので、現在の「僕のモノクロ世界」を創り上げることが出来たような気がする。

とかくテクニックを重視されるファインプリントの世界だが、僕はそれらのテクニックよりも、出来上がったプリントから放たれる観る側へのメッセージを大切にしたいと思っている。基本通りのテクニックだけではなく、何でもOKの手法で創り上げたプリントを展示した。常識的な細かいことには拘らず、作品を撮る時の心模様、プリントを創る気持ちが大切であると思っているからだ。テクニックに縛られ過ぎた作品より、作者らしさがにじみ出た表現にこそ魅力を感じているからである。勿論、アンセルアダムスの作品のような素晴らしいモノクロのトーン再現は大変魅力的で、確かな眼と撮影・暗室テクニックに支えられた作品は、写真を撮らない人にも大きな感動を与えてくれる。だからこそ、僕もアンセル・アダムスの作品が好きである。しかし、僕はアンセル・アダムスではない。僕の作画と表現に合ったファインプリントの方法を研究している。

僕は僕。僕らしい作品創りとは何かを考え続けている。今回の個展は、今の自分自身をさらけ出すことが出来たのではないかと思っている。今回の作品は被写体が自然風景で、観てくれた多くの方の共感を得られたことは大変嬉しく、心強く思っている。自然は美しく、素晴らしく、心が癒されるので撮影も楽しく心地よい。だからこそ、心が和む気持ちを作品に込め、その僕の心模様を作品に託し、作品を観ていただく方々にも僕の気持ちが伝わるようなプリントを創っているつもりである。僕自身、会場に連日開館から閉館までいる内に、個展前に徹夜が続いて持ち込んでしまった疲れも徐々に癒され、会期の終わりには気分爽快になっていた。自分の作品を眺め、観続けて、このような気持ちになったのは驚きだった。今回はモノクロのソフトな中間トーンの作品を多く展示したので、その世界が観る側に優しさを感じさせたのだろうか。自分の個展ながら、最後には不思議な気持ちで見つめていた。

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