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 No.141

三輪 薫(みわ かおる)


No.141 『写す』/美意識の放棄 2002/9/29

富士写真フイルム(株)のベルビアは世界最高のリバーサルフイルムであると思っている。以前、コダックのセミナーでさえも言い続けてきた。しかし、以外や使い方は難しく、使用目的を誤ると僕にとっては最悪に近いフイルムとなってしまう。見たよりも美しく鮮やかに写ればよいと言うものではなく、特に自然風景では、強調し過ぎるようなウソっぽい描写も避けながら、僕なりに考えるベルビアならではこその撮影条件で愛用している。僕にも必要で期待感のもてるフイルムなのだ。

日本人は水の味が分かる世界的には数少ない民族と言われて久しい。風鈴の音を雑音ではなく、風情感で聞き分けられるのも、日本人の特徴であると言われている。これらの世界に誇る事ができる日本人の美意識は、論理ではなく、身体で覚え、身につける世界なのである。日本人特有の色や風情感に対する感受性を生かし、撮り続けて行きたいと考えている。

味覚にも言える。レトルト食品、コンビニ弁当、ファミリーレストラン、などなど数え上げたらキリがない。味覚は母などが作ってくれる家庭の味が基本となり、世に出て色々な体験で鍛えられる。現代の家庭に包丁やまな板がない、と言う話も珍しくないと聞いて、びっくりしていたのは遙か以前のことだ。自分の確かな味覚で判断できる味はどこかに行ってしまい、評論家やマスコミの言う味に翻弄されていることも多いような気がする。

全ての人の判断や意見などが正しいとは限らない。勿論、ベルビアやダイナハイカラーなどとPLフィルターとの組合せも同様で、間違っているわけではない。ただ、全ての被写体に、全ての条件で使える訳ではないと言う大切な点を除き、表現目的によっては選択の正しい方法論でもあることには違いないのである。

しかし、現状ではそこまで深く考えた結果選択していないからこそ大問題であり、結果として、人として、日本人として、最も大切な美意識を放棄した、させてしまった影響力のある人達の責任は大きいと思っている。僕のファインプリントへの解釈も同様で、今回の個展で発表したプリント方法も僕ならではの「作画と表現」のためのものであり、全ての人の作画に合っているとは限らない。プロの選択は正しいとは限らないことを、肝に銘じて欲しい。

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