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 No.87

三輪 薫(みわ かおる)


No.87 「見ること感じること」/写真のトーン 2002/1/6

写真の素晴らしさは、記録性と共に、プリント上に再現された美しいトーンとグラデーションだと思っている。しかし、カラーでは鮮やかな色調に覆われた写真や、ハードトーンのモノクロ写真なども多い。アンセルアダムスはモノクロ写真で有名だが、晩年にプリントされた作品は、同じカットでも初期にプリントされたものよりハードなトーンで再現されている。日本よりも景気がよいアメリカでは、1枚1.000万円以上の価格で売買されている作品もあるという。景気だけの問題ではなく、大衆が抱く写真への価値観の違いも大きいと思う。写真作品が他分野に比べ低い評価を受けていると思われる日本は、我々写真家の努力が足りないこともあるようだが。

僕の黒白写真は、写真の世界に入った頃は結構硬調なものが多かった。コンテンポラリー・フォトグラフィー全盛の時代的にそのような再現がもてはやされ、ブームともなっていたし、若かったから刺激的な作画と再現性に惹かれていたのかも知れないと思っている。しかし、今は限りなく美しいグラデーション再現の写真に魅力を感じている。そのために益々中間調による淡白な描写をした作品に惹かれてくる。このような作品は強烈な作画に比べると見劣りすることが多い。以前書いたカレンダーのプレゼンテーションでも、やはり派手目の写真のほうが有利のように聞いている。ドラマチックで目立ち、自己主張が強く感じるからであると思う。しかし、僕の自己主張は強烈な色やグラデーションの再現ではなく、画面の奥底からじわじわとわきでてくると感じる色や空気感などによって醸し出される臨場感豊かな世界で発揮したい。一見、見劣りするように思っても、じっと眺めていると鮮やかな描写の作品よりも、作者の気持ちが伝わってくるように感じることもある。自分のスタイルを見つけ、数少なくてもよいので満足感の高い作品を残したいものと願っている。

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