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 No.95

三輪 薫(みわ かおる)


No.95 「見ること感じること」/旅で出会った日本の伝統工芸 2002/2/8

先月、名古屋で開催した個展「風色」の会場に数日詰めた後、写真学校時代にお世話になった方の墓参りを済ませ、降り積もった雪に覆われた実家の関ヶ原に里帰りした。そして、明くる日から東尋坊・越前・金沢・羽咋・輪島・親不知と北陸を回ったが、今回は久し振りの「温泉と海の幸を楽しむ旅」になった。

金沢では市場近くの「寛永15年創業の老舗旅館」に泊まったが、料金は国民休暇村程度にもかかわらず夕ご飯は部屋食だった。和風旅館は落ち着いた佇まいが嬉しい。しかもトイレはウォシュレット。夕食後には「わの会」会員の方にもお会いでき、近くのホテルでお茶を飲みながら談笑。明くる日は、金沢の昔の姿を彷彿とさせる家並みが立ち並ぶ「ひがし茶屋街」を散策し、旅館近くの自家焙煎のコーヒー屋さんで美味しい珈琲を飲みながら旅の一時を楽しく過ごした。先の会員の方がプレゼントしてくれた醸造酒の「夢醸」は、帰宅してから楽しませてもらった。妻と二人で飲んでしまうのが惜しい酒だった。

輪島では民宿に泊まり、舟盛を注文した。少食の僕達であるが、大盛りにもかかわらず新鮮な海の幸の余りの美味しさで大半をぺろりと平らげてしまった。しかも驚くほど格安だった。輪島塗りの店の中にある喫茶店では、「輪島塗りのカップ」に注がれたコーヒーと、同じく輪島塗りの器に盛られたババロアも楽しめた。いずれも職人が作った器の素晴らしさを、唇で、舌触りで体感できた。特にスプーンの感触は最高だった。しかし、余りにも高価過ぎて購入は諦めたが、金沢では手ごろな価格の塗りの器を少し買ってきて、現在食卓に華を添えている。安くても日本の器らしいものが加わることにより、目でも美味しさを楽しむことができるような気がする。

輪島漆芸美術館で見た作品は、驚きを隠せない素晴らしいものだった。若い頃塗師を経験していただけに、漆の世界の表現の可能性を改めて確信でき、嬉しく貴重な時間だった。器だけではなく、絵画と同様に表現された作品を前にして、心が思わず震えてしまった。塗り、蒔絵、沈金などと、日本の伝統工芸の真髄に触れた至福の時を味わってきた。日本の伝統文化に新しい時代の作家の息吹を吹き込まれた作品の素晴らしさを体験できる場所だった。是非訪れて欲しい。

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