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 No.176

三輪 薫(みわ かおる)


No.176 『写す』/作者とラボとの関係 2003/4/1

個展を主に創作活動をしている僕は、プリントへの拘りがかなり大きい。モノクロ写真のファインプリントを自分で行っているから、尚更自分で行わないカラープリントには、プロのプリンターの方への期待感が益々大きくなる。しかし、プロのプリンターだからと言って、全てが期待通りの、満足の行く仕上がりになるとは限らないと思う。

現在、僕がお願いしているプリンターの方は、もう随分長いお付き合いになる。現在では万全の信頼を寄せているが、最初から今のような気持ちと期待感を抱いていた訳ではなかった。その方が初めて担当してくれた個展時のプリントでは、口には出さなかったけれど、お互いの顔色を伺うと面白かったのではないかと思っている。自分の顔は見えないが、プリンターの方の表情が変わってきたのを覚えている。お互いプロだからこその自信と自負があり、葛藤が生まれてきたからだと思っている。しかし、発注する側と逆の立場では、自ずから押す力が決まってくる。しかし、間違ったことを要望している訳ではないので、プリンターの方の人柄もあり、こちらの求めにきちんと応えてくれ、最終的には満足の行く仕上がりになった。もう、僕との付き合いは懲り懲りかと思っていたら、個展会場に来てくれた時、「また、一緒にやりましょう」と言われ、とても嬉しかった。作者の意向や作品創りへの姿勢は、必ず伝わると確信した。

お陰で、その次からの個展作品のプリントは少しずつ進展し、注文する言葉も少なくて済むようになってきている。長年付き合っていると、作風への理解が深まり、作者の考え方などが以心伝心になるからだろう。また、作者とプリンターとの信頼関係だけではなく、最も左右するのが作者の作品にプリンターが共感できるかどうかに掛かっているような気がする。今回のコダックフォトサロン展の作品を見てくれた、随分以前に開催した個展作品のプリントを担当してくれた人から連絡があり、その時のいきさつを初めて知った。

「私が初めて三輪さんのポジを見た瞬間、この部分の暗部は出ないなぁって思いました。でも、きっとこの暗部を見せたいのだろうと思い、ちょっと反則的な技を使って、焼き上げました。それでも、1枚の露光に20分から30分かかったと思います。これ、もし正直に焼いていたら、きっと1時間以上かかった事でしょう。通常焼く方としては、そんな暗部を焼きだそうとはしないものです。『無理です、か、限界です』の一言でやらないでしょうね。私は、このポジを見た瞬間、こうでなくてはならないと強く感じました。きっと、三輪さんの撮影した時の気持ちが伝わったのでしょうね。あの当時、何も注文されない状態であれだけ手をかけるような事は普通しませんから。私は三輪さんの写真に強く惹かれたものと思います。」

当時は僕も経験が浅く、今ほどプリントのことが分からず、およそのことくらいしか注文は出さなかった、いや、出せなかったような気がする。しかし、言葉では出さなくても、本人の意向や作画を理解し、代弁する仕事をしてくれる人もいたのだ。それには、プリンターが担当する作品への共感や思い入れが強くないと出来ないことである。仕事だからと言って、商売にならないくらいのめり込み、時間を掛けてプリントをすることは、会社にとって好ましいことばかりではないからである。それでも担当してくれた人の意向と好意で、作画を理解して行ってくれたことに対しては感謝の言葉も見つからない。そのようなことは何も知らず、大変失礼してしまった。聞いて、初めて知ることだった。

しかし後年、「三輪さんはプロラボにとって、うるさい人の上位にいる。しかし、三輪さんのような人もプロラボには必要なんだよ」と、プリンターの上司の方から言われたことがある。その頃は先のプリンターの方が担当してくれた時より、僕もプリント依頼への注文方法などの経験を、多少は積み重ねていたように思う。

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