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 No.182

三輪 薫(みわ かおる)


No.182 『写す』/ネガプリントの可能性-2 2003/5/22

僕の愛用フィルムのほぼ全部と言ってよいほど、カラーの世界ではリバーサルフィルムである。しかし、個展などでのプリントはダイレクトプリントではなく、全てインターネガを作ってネガ用のペーパーにプリントしている。何故かと言えば、色鮮やかでコントラストも高いポジフィルムの特性をより強調するダイレクトプリントでは、見たままの自然さが損なわれ、ウソっぽい表現になりやすい危険性を秘めていると思っているからだ。

また、僕の作品は画面全体が明るい色調のものが年々多くなり、空気感や光りに透明感を期待し、全体的にソフトな描写を求めることが増えてきたからでもある。この様な再現には大方ダイレクトプリントよりもネガプリントの方が合っている。

先のプロラボの方は、「デジタルでなら、様々な色調やコントラストの再現の調整が出来、ベルビアやコダクロームなど様々な色調再現が、ネガフィルムをスキャンすれば可能だから」と言っている。グラデーション再現が豊かであれば、引き算は可能だ。しかし、フィルムやデジタルで撮った中に情報がないものには、再現したくてもできないのは誰もが理解できることである。だからこそ、情報が最も密になっているネガフィルムを選択することが、これからの写真の選択であると言っているのだろう。

慣れとは恐ろしいもので、一見鮮やかな色調に馴染むと、おとなしく感じるネガフィルムなどの色調再現には頼りなさを感じてくるものだ。味が濃い料理を食べ続けていると、薄味には頼りなさを感じるのと似ているだろう。しかし、京懐石のように素材の味を生かしながら調理されたものには、僕は格別の満足感がある。料理の素材の味を調味料などで隠してしまうような料理は、どうしても好きになれない。このような考え方を持つ者にとっては、仕事柄ネガフィルムを使えなくても、最後にはネガフィルムと同じように見えるインターネガからのネガプリントに期待し、満足感を得ることになる。アナログ世界の個展では、大半がダイレクトプリントになっていて、今やネガフィルムで撮ったり、ポジフィルムからインターネガを通してネガプリントしている者は少数派になっている。鮮やかでインパクトのあるものが溢れた現状は残念で、寂しいことと思っている。

特に、ネイチャーフォトの分野では、プロも含め大半の作品がいまだに富士のベルビアである。このフィルムは、ある部分では世界最高のものと思っている。しかし、作品表現としては、誰もがメインフィルムとなる訳ではない。なのに、現実には個性豊かなはずのプロでさえ、大半が同じような考え方であるのが、不思議と言えば実に不思議な現象であると思っている。この様な没個性的な安易と思えるような世界には染まりたくない。

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