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 No.203

三輪 薫(みわ かおる)


No.203 『写す』/「風香」東京展 2003/11/24

今回の個展「風香」は京都展のみの開催のはずだったが、協賛各社の作品への評価と、京都展で遠くからも多くの方々が来てくれたことも手伝ってか、エプソン主催による東京展が実現した。もう一度自分の作品とゆっくり対面できた喜びも大きく、長年思い描いてきた写真で日本画や水墨画を描く作風による「写真でも、絵でもない」新しい表現をより多くの方々に観ていただいた。

この作風は長年銀塩のアナログで研究してきたが、最後の砦はペーパーで、銀塩の印画紙では限界があった。数十年前から和紙へのプリントを期待していたが、長年の耐用に沿った技法は見つからず、その内何とか実現することを念頭に置いて、作風への研鑽を積み上げてきた。

近年のインクジェットプリンタの進歩により、今回の和紙への顔料インクによるデジタルプリントの作品創りができた。しかも、プロラボの出力によるデジタルプリントの個展は膨大な予算を組まないと実現不可能であり、エプソンを初めとする協賛会社を多く得られ、やっと長年の念願が実現できた喜びは大きい。また、絵画などの複製には定評のあるデジタルプリント技法EPSON PiezoGraphのオペレーターの第一人者の方に作品創りの出力をお願いできたことがラッキーだった。作品創りへの想い、プリントへの期待感、色合いやグラデーション再現、空気感や臨場感の再現など、テストプリントを重ねながら相互に対話と打ち合わせを何度も繰り返しながら、プリント制作を足掛け三ヶ月掛かって積み重ねてきた。

東京展でも京都展同様に来場者の方々の驚きは大きかったようだ。写真展と思わずに会場に入れば、まず写真として観る方は少なかったと思っている。京都展終了後には、ある場所に展示してあった僕の作品を日本画家の方が観て、凄い画家もいるものだと驚いた、との言葉を後日伺ったが、新しい表現を目指した作風を実現できたと確信を抱いた。

本物の絵画と見間違うほどの複製を創る、定評のあるデジタルプリント技法EPSON PiezoGraphは本当に凄いもので、この技法を複製ではなく写真のオリジナル作品の創作に生かしたのは僕が初めてと自負している。現在、デジタルプリントによる写真展は数多く開催されているが、この様な作風とプリントレベルでの作品展は少ないだろう。と言うよりも、なかったかも知れない。

しかし、今回の個展ではプロの写真家やカメラマンの来場者は驚くほど少なく、片手で十分数えられるくらいだった。多分に巷で開催されているレベルでのものと判断したか、僕の個展には興味を示さなかったことが原因である。しかし、観なきゃ損の個展であったと確信している。何故なら、オリジナルプリントに拘るアナログの権化と自負する僕が、何故デジタルプリント展なのかを考えれば、いい加減なプリントで開催するわけはないからである。僕の作品創りは、結果が先にあり、その結果を目指してプロセスを選択することが僕の手法で、デジタル時代だからと言ってデジタルプリント展を開催している作品とは全く違うことが読み切れなかったからだとも思っている。

今回の来場者で、現在巷の個展でいい加減なプリントを展示し、それを許しているギャラリーの姿勢を嘆き、怒っていた業界の方の言葉が印象的であった。

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