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 No.209

三輪 薫(みわ かおる)


No.209 『写す』/何でもありの、デジタルフォト 2004/1/9

デジタルフォトは今でこそ一般的になっているが、フォトショップで簡単に出来る修正など、数十年前には1カット数万円から数十万円も必要だった。だから、撮影後の修正を必要としない撮り方をしていた。当時のアメリカの広告写真では、フイルムへのレタッチが当然のように行われていたと聞いたことがある。だから、日本のカメラマンがアメリカに行って撮って見せた写真が、余りにも修正を必要としない、きれいな仕上がりでびっくりしていたということもあったらしい。

ソラリゼーションとかポスタリゼーションなどと呼ばれる表現技法がある。暗室技法やマスキングや合成などのテクニックで創り上げる表現世界である。僕はこの様な職人芸的な技法を駆使した仕事もしていた。しかし、デジタル世界のソフトの開発と登場によって、現在ではいとも簡単に素人でも出来てしまう。以前にはプロの技であったものですら、修行を積み上げたプロ独自の自慢のものではなくなっている。プロにとってデジタル世界は、全てが歓迎できるものではないのだ。

しかし時代の流れには逆らえず、今こそデジタル世界にアナログ世界で培ってきた経験を生かして新しい息吹を吹き込んだり、アナログでは出来なかった表現世界を探求することこそ、デジタルの活用と信じて行わなければ意味がないような気がする。

若い頃修行していた塗師は伝統工芸であり、新しいことにとらわれるよりも技術の基本的な伝統を踏襲するほうがレベルの高い仕事になることも多かったように思う。写真の世界も同様であると信じている。だからこそ、デジタル世界が全盛となりつつある今でも、アナログ世界の素晴らしい部分を伸ばし、研鑽も続けて行きたい。

今月19日より銀座キヤノンサロンで開催する個展「風色-II」は、長年探求してきた作風の現時点での到達を示したものだ。デジタルカメラで撮り、大判プリンターで伊勢和紙に出力したデジタルプリント展である。銀塩の手法では出来ないものだからこそ、この方法と手段を選択している。銀塩世界で会得したものをデジタルでの表現に結びつけ、長年の念願を果たした作品を展示する。是非ご覧いただきたい。

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