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 No.247

三輪 薫(みわ かおる)


No.247 『不思議に思うこと』/コダック社の売り上げが伸びた不思議 2004/12/3

アメリカのイーストマン・コダック社の7−9月決算が、昨年同期比で4倍の売り上げだったということがニュースになっていたそうだ。写真界も世界的にデジタル化が進み、アナログ世界は落ち込む一方である。フィルムの生産では世界一と思われるコダック社はその煽りを受けて大変なはずだと思っていたのだが、いち早くデジタルへの転身を図っていたのかと思われる。さすがコダック社である。

しかし、銀塩写真の落ち込みは僕にとって深刻な問題も抱えている。愛用の印画紙やフィルムが次々と生産中止になっているからだ。銀塩写真が160年を越える歴史を持っているのに比べ、デジタル写真はまだまだ歴史が浅い。そのデジタルが確固たる世界を持っていたアナログを脅かし、捨て去ろうとさえしているように感じてしまう。それに比べ美術分野では、アナログとデジタルをバランスよく維持しているように思う。

遂にコダック社は、長年プリント技術を磨いてきたプリンターがその能力を発揮できる印画紙をも生産中止にしてしまった。大半のプロ作家も写真愛好家もまだまだリバーサルフイルムを常用しているが、インターネガはなくなり、リバーサルフィルムからのダイレクトプリント用ペーパー・ラディアンスの製造も打ち切られ、その現像薬品であるR−3ケミカルもなくなると言う。在庫が尽きる来年春にはデジタルラボ(ラムダ)を使用し、ウルトラエンデュラペーパーというカラーネガペーパーに焼き付ける方法のみしか選択の余地がなくなってしまう。そのような状況をつくりながらも、現在のコダックフォトサロンはコダック製品のみしか展示を認めない規約があり、それを遵守している。写真展を1銘柄のカラーペーパーだけで行おうとしている姿勢を理解できないし、黒白のバライタ印画紙は常時在庫されず、ファインプリント制作者にとっては泣きたい心境である。実に不思議な方針だと思っている。

ニコンが銀塩カメラの高級機種F6を発売した。今更と思う機種である。しかも30万円と超格安価格で登場し、驚き、その企業姿勢を高く評価した。しかし、デジタル時代の今ではさほど売れないだろうから、思い切って50〜100万円くらいの価格設定でもよかったのではないだろうか。人とは不思議なもので、別な世界に移行しようとすると反動的な動きも起こるものだからだ。

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