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 No.300

三輪 薫(みわ かおる)


No.300 『生きる』/花とコダクロームを愛した写真人生 2006/6/15

先日、20年近く前にカルチャースクールで出会って以来お付き合いが続いていた方が他界された。こよなく花を愛し、コダクロームで撮り続けた方だった。鳩居堂ビルの京セラ・コンタックスサロン銀座で個展を開催されたのが楽しく懐かしい思い出となってしまった。この方とは講師と生徒を越えた気持ちで長年お付き合いしてきた。お母さんと言っては失礼な歳で、ちょっと年上のお姉さんと言った感じで接していた。だから余計無念であり、二回目の個展開催を楽しみにしていただけに残念で、悲しさと寂しさがこみ上げてくる。

花が心底好きで、カルチャースクールの写真教室の実習や撮影ツアーなどで自然風景がとても魅力的な所に行っても、ひたすら足下に咲く可憐な花などにカメラを向けていた。夏の尾瀬ヶ原では「夕飯など抜いてもいいよね」と言いながら、薄暗くなるまで一緒に撮り続けていたものだ。北海道のツアーでも、大半の方が目の前に広がる雄大な自然にカメラを向けているのに対し、ちらちらとそれらの風景を眺めながらも足下の花などにカメラを向けていることが多かった。「わざわざ北海道に来なくてもよかったのにねー」と、冗談半分で冷やかしていたものである。

草花の撮影にはプロでもコダクロームをメインにしている人は少数派か、ほとんどいないのではないだろうか。しかし、この方は大半コダクロームで撮り、自然感漂う素敵な色合いに仕上げていた。僕が1985年にペンタックスフォーラムで開催した花の個展「花逍遥」も大半コダクロームで、この方とはその頃に出会ったように記憶している。一時期、コダクロームの仕上がりが、現像が原因だったのかは分からないが、この方の期待する色調にならず、エクタクロームに切り替えたことがあった。しかし、エクタクロームでも期待色とは違っていて、長年心を託してきたコダクロームに戻した。

愛用のカメラはコンタックスで、花にはマクロプラナーの100ミリレンズがメインだった。コダクロームとツァイスレンズは共に世界最高峰のもので、この組み合わせは心の中で描く世界を上手く引きだしてくれると思っている。主宰するワークショップの研究会でも、コダクロームでどうしてこのような写りになるのかと、メンバーが不思議に思い、驚いていた。

締切の仕事があり告別式には伺えなかったが、通夜に出掛けた。この日は他界を惜しむ涙雨で、花を愛で続けた人にふさわしい天候に思えた。会場には、個展「花咲う(はなわらう)」の作品が展示されていた。花が、写真が大好きな方にふさわしい葬儀だった。 合掌。

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