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 No.308

三輪 薫(みわ かおる)


No.308 『写す』/銀塩写真の可能性とデジタルフォトの魅力 2006/9/10

先の新聞記事で浅井慎平さんの言葉も掲載されていた。「フィルムがなくなると、表現としての写真は消えかかってしまう」「音楽も、シンセサイザーでは弦楽器の音を何回も正確に出すことは可能だが、弦の間合いまでは出せない」。よく分かる解説だ。写真ではフィルムの銀塩プリントから感じるものと印刷での違い、レコードを真空管アンプで聴くのとCDをデジタルアンプで聴く違いのように感じる。デジタル全盛になっても、人間までもデジタル化されるわけではなく、微妙な機微をかぎ分けることができるアナログ世界も再認識されると思う。

この辺りを富士写真フイルムはよく分かっているのだろう。「感光写真事業を継続していきたい」との姿勢には心強く感じている。映画や写真でも、モノクロの画面から受ける深い味わいは格別のものがあり、心をときめかせる表現世界がある。モノトーンの水墨画から受ける印象が、カラーの日本画や油絵などとは一味違う魅力溢れた表現力をもっているのと似ているような気がする。

銀塩のカラーフィルムではアグファやコニカがすでに撤退した。カラーペーパーではコニカも撤退し、コダックの銘柄も少なくなるばかりである。その結果、カラーでの表現に応じた選択肢も少なくなる。困ったことだ。音楽の世界でも、以前音楽家が愛用の往年の素晴らしい音を奏でたり再現してくれる楽器やアンプなどが販売できなくなるとの話題に溢れていた。何も知らない政治家がつまらない法律を立法化し、困る多くの表現者がいても改正する様子が見られないのが嘆かわしい。

しかし、音楽の世界も写真の世界もデジタル化によって得ることが多いのも事実である。2003年から相次いで開催してきた和紙によるデジタルプリント展では、銀塩では僕の作風を受け止める表現に限界があったものが実現できた。明日9月11日(月)〜16日(土)まで有楽町駅前にある東京交通会館7Fの京セラ・コンタックスサロン東京で、4年ごとに開催してきた「ファインプリント展」の4回目を開催する。今回は銀塩のバライタ印画紙KODAK「エクタルア」と僕のメインメディアである伊勢和紙によるデジタルプリントとのコラボレーションで展示する。銀塩とデジタルの作品を同じ会場に展示するのは初めてのことで、どのような反応があるか楽しみである。

また、1回目に展示したヨセミテでの作品はKODAKのファインアートペーパーでハイライトからシャドウまでを出した、アンセルア・ダムス調のプリント仕上げだった。今回も6点展示するが、「エクタルア」によって僕らしい作風を引き出した作品に仕上げている。

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