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 No.314

三輪 薫(みわ かおる)


No.314 『写す』/オリジナルプリントへの拘り 2006/11/11

家業の塗師を4年間修行した後、写真の道を選んだ。その後35年が過ぎてしまったが、作品は一巻としてオリジナルプリントをメインとした個展開催をメインに発表し続けてきた。作品の発表の方法は様々あるが、やはり写真は生のプリントが最終作品であると僕は考えている。画家や版画家や彫刻家と同じ姿勢である。

より多くの人に自分の世界を伝えるには印刷媒体のほうが合っている。しかし、写真は拡大してみせる表現であり、その作品に応じた表現を印刷などで再現するのは難しい。特に、京セラ・コンタックスサロンで開催しているカラー作品の個展では、1996年の「風光-III」からは展示プリントも益々大きくなり、小さなサイズですら全倍。最も大きな作品は畳一枚を超えたサイズになっている。このような個展会場で生のプリント作品を見た印象を維持しながら印刷で再現するのは不可能である。オリジナルプリントだけが与えてくれる表現世界である。

ここ10年近くカラー作品での個展でメインに選んできたペーパーも、一昨年に開催した海外の岩の風景「Rock」展の時に製造中止になってしまった。ロールを2本確保して、1本をこの個展に、もう1本を過去の作品のポートフォリオ作成に充てた。モノクロ作品はバライタ印画紙で自家処理しているが、カラー作品はプロラボに頼んでいる。しかも、同じ人にお願いしている。自分が求める作風をより深く引き出してもらうには、ラボマンとのお付き合いが長く、コミュニケーションを深めないと引き出せない。話や演奏の間合いのとりかたと同じで、デジタル的な判断では不可能な部分もあるからだ。つまり、一流のプロが引き出す最高のテクニックは心の持ち方でより高度に発揮されると信じている。

僕のモノクロプリントも歳を重ねる毎に変化してきた。グラデーション豊かなトーン再現をするのは当然だが、かなりの温黒調になってきた。アンセルア・ダムスが晩年オリエンタルのバライタ印画紙を使うようになって、初期の作品に比べると、かなりハイコントラストな冷黒調になってきたのとは逆である。カラー写真ではハイコントラストや鮮やかな色調よりも優しく渋めの趣を求める傾向が強くなってきたが、モノクロでも同様である。

そのような経緯の中で出合ったのがKODAKの肖像写真用のバライタ印画紙「エクタルア」だった。少し黄色味を帯びた温黒調の画質は、僕が求める作風を再現するのにピッタリ合っていた。処理の仕方によっては、かなりソフトに、暖かみのある仕上げが可能になる素晴らしい印画紙である。しかし、この印画紙も既に生産中止になってしまったが、今回のファインプリント展を終えてもまだ次回用に十分な在庫がある。

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