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 No.430

三輪 薫(みわ かおる)


No.430 『写す』/フィルムのデジタルデータ化の利点 2008/4/5

個展「風光-V」で、おまけ的に会場のメイン壁面とは違う場所に8×10インチ判カメラで撮影した製鉄所の作品を展示していた。3月15日〜16日に京都で開催の[全和連「手すき和紙フォーラム」in Kyoto 2008]で手漉き伊勢和紙・伊勢斐紙 風雅 二枚重ね 四八判(1100mm×2400mm)にプリントした作品を全紙にもプリントしていて、「風光-V」展の額装と同時に仕上がってきた。持ち帰るには惜しい作品と思って、折角だからと来場者に見ていただきたかったからだ。

このカットは、薄暗い製鉄工場の片隅の情景を撮っていて、ラチチュードの広いKodak T-Max 400でも再現が難しいライティングだった。勿論、ゾーンシステム的な撮影をしているが、それでも暗いシャドウ部のネガ部分は透けるように薄く、照明に近い部分は肉乗りが厚いネガに仕上がっていた。自宅の8×10インチ判引き伸ばし機でもプリントしているが、当然ながら、見た目の印象に仕上げるのは至難の業で、シャドウ部とハイライト部の印画紙への露光時間は数十倍の開きがあり、同じ黒といいながらも締まり方が全く違ってくるのは仕方がない。

ところが、このフィルムをスキャナーでデジタルデータ化し、きめ細かくレタッチしてプリントしたものは、銀塩プリントを遙かに超えた見た目の自然な表情で再現できた。シャドウ部の黒も画面全体で均一的になっているので驚いた。デジタルプリントの本領発揮と言った利点である。フィルムのデジタルデータ化は、僅かな画像も、真っ黒に近い部分もしっかりデータ入力していて、アナログの世界ではなしえなかった部分を十分に補ってくれる。嬉しい限りである。

デジタル化によって、銀塩では満足できなかった部分も救われる利点は実に大きい。今回のこのプリントで驚いたことの一つには、上記のことだけではなく、何と和紙にプリントしたにも係わらず、金属の質感を感じたことだった。多少抱いていた先入観では、絵柄は何とか出るだろうが、製鉄工場の機械などの質感描写にはかなりの限界があるだろうと思っていた。予想を反して見事に再現できたことは、和紙のメディアとしての可能性を再認識し、デジタルの素晴らしさを再認識したことだった。

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