Toppageへ
 No.445

三輪 薫(みわ かおる)


No.445 『生きる』/終戦記念日 2008/8/15

昭和23年生まれの僕らの世代にとっては、8月15日は太平洋戦争に、幸いにも終止符を打たれた終戦記念日という印象が強い。しかし、戦後3年経ってこの世に生まれてきた僕には、当然ながら悲惨だった戦争の体験や、戦後の食糧難の記憶もない。記憶にあるのは、父母などに聞かされてきた話だけである。

僕が赤子の頃は母親の母乳が出なく、脱脂粉乳などで育ったと聞いている。また、3歳年下の妹は栄養失調だったとも聞いている。当時実家は百姓もしていて、米や野菜も多く作っていたと言うことだったが、大半供出を余儀なくされ、戦時中よりも乏しい食糧事情だったようだ。だから、折角収穫したものも口に出来ず、芋ではなく芋の茎を食べ、アザミのスープなども飲んでいたと母が言っていた。だから、母乳も出なかったのかも知れない。

夜に、3月に放映されて見ることが出来なかったデジタルビデオに収録していた二夜連続で放映の「東京大空襲」の前編を見ていた。この時期にはこのような内容のドラマやドキュメンタリー番組が毎年のように放映される。国民を無視した一部の愚かな人達によって引き起こされた戦争体験を風化させないためにも、よいことだと思っている。戦争の悲惨さは僕らの世代でさえ実感がない。だから、僕らの子供達の世代にとっては絵空事か夢か幻のように感じてしまう出来事に思っても仕方がないのかも知れない。しかし、この事実は、僕らの子孫や、世界中の人達に語り伝え、語り継がなくてはならない大切なことである。

このドラマの内容はよかったのだが、つまらない絵空事にしてしまおうとしているのがテーマソングだった。心にぐっと迫ってくるクライマックス的な場面で、間延びした、俳優の台詞も消し飛んでしまいそうな声を張り上げただけの歌が響いていた。なぜ、心にしみこむような歌い手の歌を挿入しないのだろうか。一度挿入された日本の歌ではない外国の女性の、心の底から声が出ているような静かに歌い上げる挿入歌のほうが遙かに効果的だった。

このドラマを見ている時、目の前に置いてあったのが旅の雑誌。表紙や口絵の写真は、おどろおどろしいくらいの超鮮やかな、現実離れをした紅葉の写真に溢れていた。このような写真を見て日本の紅葉は素敵だと思い、出掛ける気になる人が多いのだろうか。先のドラマで、ただただ声を張りあげている歌手の歌と同じだとガッカリして眺めていた。このようなドラマや口絵の写真を見るに付け、日本人に心優しい繊細さが欠けてきたように思え、複雑な想いが溢れてきた。

戻る