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 No.487

三輪 薫(みわ かおる)


No.487 『写す』/日本の伝統工芸と写真表現 2009/9/10

金を多用した絵で知られるクリムトは、江戸時代の日本画や日本の伝統工芸の影響を多く受けたことで知られている。女性を描いた絵には、色香というよりもエロスを感じるほどの描写に溢れている。

僕の実家の家業が日本の伝統工芸の一つである漆を扱う塗師で、この家に生まれ育ち、高卒後4年間携わったことも影響してか、僕の写真はこの日本の伝統工芸を深層心理的に思い描きながら撮ってきたように思っている。「写真とは何か」というような限られた枠を超えるように、いろいろと思考し、思いを巡らせながら作風の構築に努めてきた。そのような見解では、クリムトは時代を先行した画家であるかも知れないが、僕は日本の現状の写真界に合わせることもなく、先行する訳でもなく、自分が思うがままに撮り進めてきたような気がする。

だからか、一般受けすることもなく、アウトローとして長年写真界の片隅で作品創りに没頭してきたように思っている。しかし、後悔はない。現世に迎合することもなく、自分の生きたいままに生き、写真を撮り、発表してきた。しかし、そのように気ままに生き、撮りながらも、一部の人達には共感を覚えるような作品を創ってきたのも事実であるようだ。僕は、後世に作品を残したいとか、名を残したいと思ったことがない。自分の作品にしても、個展開催の最中にも次の個展のことを考えていて、大半の作品に対して名残惜しさが消えてしまうことも結構あるような気がする。

発表が済んだ作品に拘るのではなく、これからどのように生き、結果、どのような作品創りをするのかに興味がある。自分の人生には後悔を抱くことも多いが、自分の分身である作品に関しては、意外や冷めた見詰め方をしていることに気付き、我ながら驚くこともある。

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