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 No.529

三輪 薫(みわ かおる)


No.529 『創る』/写真の楽しさ 2010/10/25

デジタルカメラは実に便利で、撮影の失敗がほとんどないカメラである。だから雑誌などの撮影はほぼ全てがデジタルに移行している。しかし、作品作りの撮影で楽しいかといえば、全面的に肯定出来ない部分もある。何事も失敗から学ぶことも多い。デジタル撮影では撮影時に失敗をフォローしてしまい、余程のことがない限り大きな失敗と感じることはなく、多少の失敗は後処理で救えてしまう。これは実に嬉しく助かることだが、だからといって作品作りの楽しさを十分に支えてくれているかどうかは分からない。

専任講師をしている写真クラブにデジタルカメラしか使ったことがない人が加入してきた。話していると実に熱心で、興味を持つかどうかは別にしてフィルムカメラを勧めてみた。リバーサルフィルを使うことで写真の色を早く把握して欲しかったからである。時代に逆行するようなアドバイスだったかも知れないが、何と最高機種のボディーを買ったと知らせてきた。挙げ句、数種のフィルムではなく、数多くの銘柄を試すように進言した。素直な人なので僕が言うままに買い、使ったそうである。

数泊の撮影行でデジタルカメラと共に持って行き、幸か不幸かデジタルカメラ専用のレンズが数日後に壊れ、以後はフィルムカメラで撮影したとのこと。フィルムカメラでは、デジタルとは違って妙に緊張したそうだが、フィルム撮影の初体験だったせいもあるのだろう。しかし、だらだらと適当に撮るよりも緊張感を抱きながら撮るほうがいいに決まっている。撮った写真をすぐに見ることができない不安感は、撮影時の緊張感を生む。だからかフィルム撮影したものは、カットの内容や撮影データまで記憶に残っていたという。

オートマチック限定の運転免許証を取得してオートマチックの車に乗り続け、車好きになった頃にマニュアルミッションの車に惹かれ、AT車限定解除の免許証に切り替えた人の気持ちと重なる部分もあるような気がする。写真を撮る楽しみと車を運転する楽しみは似ているのだろうと思っている。アナログの魅力は尽きない。

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