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 No.539

三輪 薫(みわ かおる)


No.539 『生きる』/アルバム写真 2011/1/20

正月に妻の実家に行った折、兄が亡き父が残したアルバムを見せてくれた。今まで見たことがなかった父母の若い頃の写真や妻の子供の頃の写真があり、僕たちの結婚前後の写真も貼ってあった。懐かしい想いで眺めていたのだが、ちょっと驚いたのが妻の容姿で、僕の記憶とは少しだが違っていた。人の風貌は歳と共に変わるものだが、記憶も結構いい加減であることにも驚いた。

そのアルバムの僕たちの結婚式や新婚旅行の写真を見て、今思い出すよりも随分若い年齢にも感じた。当時、妻に関してはしっかりした大人の女性と思っていて、精神的には僕のほうが随分下のようにも感じていたのを覚えている。結婚を決めた頃の僕は東京生活の弟子入り時代で、妻は名古屋で勤めていた。結婚式当時の僕は無収入だった。後で知ったのだが、妻は無収入の僕を支える覚悟だったと言っていた。だからか、マリッジブルーになり、38キロまでやせ細ってしまった。写真を見ると実に華奢で、口元が松本伊代に似た可憐な少女のように見える。そのか細い体と心でよく結婚を決心したものだと感心する。

結婚後もわがままな生き方をしてきて、いきなり仕事を辞めることもあり、生活不安を招き泣かれたことがある。まさにマリッジブルーになっても不思議ではない将来が待っていたのだ。長年一緒に暮らしているとそのようなことは記憶から外れ、いまだに身勝手さとわがままは尽きないでいる。このようなことを考えながらアルバムに貼られた妻の写真を見ていると胸が熱くなってきた。妻への思いが少し変わり、改めて感謝の気持ちも湧き上がり、愛おしさも増してきた。写真とは実に不思議なものである。

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