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 No.564

三輪 薫(みわ かおる)


No.564 『創る』/銀塩とデジタルのプリント処理の違い 2011/9/10

銀塩プリントはサイズによって露光時間に制限があり、完璧を目指すのは難しい。デジタルプリントは納得の行くまで時間を掛けてレタッチ調整して行えるので、仕上がりへの期待感は銀塩プリントとは違ってくる。また、銀塩プリントで全倍や畳一枚以上のプリントを行うには、暗室と印画紙の乾燥などにはかなりのスペースも必要になり、全倍を越える大型プリントでは壁面投影による引き伸ばし作業が必要になってくる。もはや、自家処理で対応できる範囲を超えている。しかし、インクジェットプリンタによるデジタルプリントでは、せいぜい4.5畳か6畳間くらいで済む。便利な世の中になったものである。

機器にしてもデジタルプリントの全倍サイズまでなら100万円以下でも揃うが、大判フィルムの銀塩プリントの高性能な引き伸ばし機では軽く100万円を越える。引き伸ばしレンズも1本数十万円して、処理用品などを加えると実に膨大な金額になる。但し、世界最高峰の機器などを揃えれば一生ものだが、デジタルプリントでは数年おきに買い換えねばなない。長い目で見るとどちらが良いのか、安価なのかは分からない。

しかし、銀塩プリントがいいのか、デジタルプリントがいいのかは一概には判断できない。ともに良さがあるからだ。特に暗室を持てない人にとってモノクロ写真を身近にし、長年の保存に対応出来る画材紙や和紙プリントを可能にしたことはデジタルの特筆ものの利点である。銀塩にしろデジタルにしろ、そのプリントは目で見て感じる世界である。銀塩プリントが印画紙への露光時間に制限があるとはいえ、制限がないデジタルプリントに劣るとは思っていない。音楽でも、真空管アンプでのレコードの音を聴くほうがすてきだと感じる人も多い。写真も同じで、データや理屈を越えた世界がある。デジタルフォトには確かに便利な点も多く、専門家でなくても機器やソフトを活用すればそれなりの結果を期待できる。だからと言って撮る楽しみやプリント作業の満足感が銀塩写真と同様かと言えば、否である。車のオートマチックとマニュアルミッションとの違いと同様に、運転する楽しみはマニュアルミッションが勝る。写真も同じである。

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